楽天メディカル株式会社(本社:東京都世田谷区、代表取締役会長:三木谷 浩史/以下、楽天メディカル)は、当社が取り組む、「抗CD25抗体-色素複合体(RM-1995)を用いた制御性T細胞を標的とした革新的がん治療法の開発」(以下、本研究開発)が、2021年11月に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)による令和3年度「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」(第6回)における「スタートアップ型(ViCLE)」に採択されたことを受け、このたび、AMEDと委託研究開発契約を締結しましたのでお知らせします。
本研究開発は、転移性肝腫瘍を有する固形がん患者を対象に、当社が創製した「RM-1995」(以下、本薬剤)と、波長690 nmのレーザ光照射のための医療機器を用いたアルミノックス治療(光免疫療法)(以下、本治療)の臨床試験を実施し、制御性T細胞を標的とした全身治療の開発を目的としています。
本薬剤は、細胞表面のインターロイキン2(IL-2)受容体α鎖(CD25)に特異的に結合するモノクローナル抗体と、光感受性物質であるIRDye® 700DX(IR700)との抗体-色素複合体です。同薬剤を構成する抗CD25抗体は、抗腫瘍免疫応答を抑制することでがん細胞の増殖を助ける働きを持つ制御性T細胞(Treg)の表面に発現するCD25に、特異的に結合します1)。同薬剤を投与後、医療機器レーザシステムを用いて、波長690 nmのレーザ光照射を行い、IR700を活性化させます。腫瘍局所に光照射を行い、かつTregを特異的に直接減少させることで、全身の腫瘍に対して抗腫瘍免疫応答を誘導する新規治療法となる可能性があります。
本研究開発では、原発巣の固形がんおよび転移巣のがん治療を目的として、光照射の標的を「転移性肝腫瘍」としました。肝転移は、様々ながん種でよくみられ3)、切除困難または切除不適応な同腫瘍に対する局所療法および全身療法の効果は限定的であると言われています。当社は、こうした背景から転移性肝腫瘍を有する固形がんに対するアンメッドメディカルニーズが高いと考え、同腫瘍を有する患者さまへ、新たな治療選択肢を提供できるよう本研究開発の取り組みを進めてまいります。本研究開発の計画の概略は、以下のとおりです。
<本研究開発における実施計画の概要>
- 転移性肝腫瘍に対する光照射の技術確立
- 転移性肝腫瘍を有する固形がん患者を対象とした、第Ⅰ相臨床試験の実施
- バイオマーカー探索研究
当社は、独自の技術基盤である「アルミノックス™プラットフォーム」をもとに、「がん細胞を標的とした局所治療」、「がん細胞を攻撃し免疫を賦活化させることによる全身治療」、および「制御性T細胞等を標的とした全身治療」の3つを柱とする研究開発を行っています。本研究開発は、3つ目にあたり、新たながん治療法として期待されます。
なお、1つ目の「がん細胞を標的とした局所治療」に関しては、2020年9月に、日本で製造販売承認を取得した当社製品を用いた頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)が実用化されています。
楽天メディカル株式会社について
楽天メディカルは、アルミノックス™プラットフォームと呼ぶ技術基盤を基に、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法の開発を行うグローバルバイオテクノロジー企業です。同プラットフォームを基に開発された医薬品・医療機器の前臨床試験では、特定の細胞の速やか、かつ選択的な壊死をもたらすデータが示されています。楽天メディカルは、世界中の一人でも多くの患者さんに、一日でも早く、私たちの革新的な治療法をお届けすることにより「がん克服。」というミッションの実現を目指しています。米国に、本社と研究開発拠点を構え、日本、オランダ、台湾、スイスの世界5カ国を拠点としています。楽天メディカル株式会社は、楽天メディカル社(米国法人)の日本法人です。詳しくは、https://rakuten-med.com/jp/ をご覧ください。
RM-1995について
当社の技術基盤であるアルミノックス™プラットフォームを基に開発した「RM-1995」は、細胞表面のインターロイキン2(IL-2)受容体α鎖(CD25)に特異的に結合するモノクローナル抗体と、光感受性物質であるIRDye® 700DX(IR700)との抗体-色素複合体です。RM-1995を用いた光免疫療法は、波長690nmのレーザ光照射により、固形腫瘍内のCD25+制御性T細胞(Treg)を特異的に排除するようにデザインされています2)。同薬剤を用いた治療は、腫瘍内Tregを特異的に減少させ、それにより腫瘍微小環境における局所的なTregを介した免疫抑制を解除し、CD8+T細胞のTreg比を速やかに改善させ、エフェクターCD8+T細胞応答を再活性化させることが当社の前臨床試験で示唆されています
転移性肝腫瘍(肝転移)について
転移性肝腫瘍とは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)から、肝臓に転移したがんで、「肝転移」とも呼ばれます。主な転移の経路は、原発巣のがん細胞が血流の流れに乗って肝臓に生着する血行性であると考えられています。肝転移をきたす原発巣には、消化器系のがん(大腸がん・胃がん・膵臓がんなど)の他、乳がん、肺がんなどがあり、肝臓は様々ながんの転移臓器として頻度が高いとされています3)。また、剖検例でがん患者の死亡数の38%が肝転移を持っていたとの報告から4)、日本において肝転移を有するがん患者の死亡数は年間約15万人と推測5)されています。肝転移に対する局所療法は、完全切除が可能な場合の大腸がんに対する手術のみが推奨6)されているものの同治療の適応が認められるのは10~20%程度で多くの症例は切除不能である4)とされています。また、各がん腫の肝転移を含む全身療法としては、がん免疫療法が期待されていますが、免疫チェックポイント阻害薬単剤で治療効果が認められる患者は20~30%と限定的であると言われており、複数の作用機序の治療法を組み合わせた併用療法の開発が求められています。当社は、こうした背景から肝転移に対する新たな治療法へのニーズが高いと考えています。
アルミノックス™プラットフォームについて
アルミノックス™プラットフォームは、治療技術基盤の名称であり、米国国立がん研究所の小林久隆先生らが開発したがん光免疫療法が基となっています。同プラットフォームは、医薬品、医療機器、医療技術、その他周辺技術を総合的に利用した技術基盤であり、楽天メディカル社は、これに基づき製品や治療法の開発を進めています。アルミノックス™プラットフォームとは、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法を開発するための技術基盤です。同プラットフォームを用いた治療は、「薬剤の投与」と「光の照射」の 2 段階で構成されます。薬剤は、光感受性物質 (光に反応する物質) と、キャリア (特定の細胞に選択的に集積する成分) から組成される複合体です。同薬剤を投与し、特定の細胞に選択的に集積させた後、その細胞に特定の光を照射することで光感受性物質を活性化させ、生化学・物理学的プロセスにより、特定の細胞を壊死させ、あるいは、排除します。
CiCLEおよびViCLEについて
CiCLEは、AMEDが、大規模かつ長期の返済型資金を技術リスクの一部を負担する形で提供することにより、医薬品・医療機器等の研究開発を含めた「実用化の加速化等を革新する基盤の形成」を支援する事業です。ViCLEは、CiCLEにおける、スタートアップ型ベンチャー企業が出口戦略をもって短期間に行う医薬品や医療機器、再生医療等製品、医療技術などの実用化に向けた研究開発や環境整備を支援する最長5年にわたるプログラムです。
参考:
1) Arce Vargas F, Furness AJS, Solomon I, Joshi K, Mekkaoui L, Lesko MH, et al. Fc-Optimized Anti-CD25 Depletes Tumor-Infiltrating Regulatory T Cells and Synergizes with PD-1 Blockade to Eradicate Established Tumors. Immunity. 2017;46(4):577-586.
2) Sato, K. et al. Spatially selective depletion of tumor-associated regulatory T cells with near-infrared photoimmunotherapy. Sci Transl Med 8, 352ra110, doi:10.1126/scitranslmed.aaf6843 (2016).
3) Steven K. Herrine. (2018年5月). 転移性肝癌; MSDマニュアル プロフェッショナル版
4) 三瀬祥弘、他. (2010). 肝胆膵の転移性腫瘍―疫学,臨床病期と治療方針. 肝胆膵画像, 559-563.
5) がん情報サービス. がん死亡数予測(2021年)および4) より当社推計
6) Yamamoto Masakazu. (2021). Clinical practice guidelines for the management of liver metastases from extrahepatic primary cancers 2021. J Hepatobiliary Pancreat Sci., 28, 1-25.