楽天メディカル株式会社(本社:東京都世田谷区、代表取締役会長:三木谷 浩史/以下、楽天メディカル)は、同社が創薬した抗CD25抗体-色素複合体である「RM-1995」(以下、本薬剤)と、波長690 nmのレーザ光照射のための機器(以下、本機器)を用いたアルミノックス治療(光免疫療法)について、「肝転移を有する進行または再発固形がん」に対する第Ⅰ相臨床試験(RM-1995-102/ jRCT番号:2031220721/以下、本試験)を国内で開始したことをお知らせします。
本治療の流れと作用機序 |
本試験は、レーザ光照射が可能な肝転移病変を1つ以上有し、適用となる標準治療がない進行または再発固形がん患者さんを対象とした第Ⅰ相臨床試験です。本薬剤を用いたアルミノックス治療の単独療法(第Ia 相および第Ib 相)、およびペムブロリズマブとの併用療法(第Ic相)における安全性および忍容性を評価し、最大耐量(MTD:Maximum Tolerated Dose)または最大投与量(MAD:Maximum Accepted Dose)と第II相臨床試験で用いる推奨用量を決定します。また、肝転移に対する本機器の安全性の評価も行います。
肝転移をきたす原発巣には、消化器系のがん(大腸がん・胃がん・膵臓がんなど)、乳がん、肺がんなどがあります。肝臓は、さまざまながんの転移臓器として頻度が高く1)、同転移巣は予後も不良であるといわれています2)。さらに、切除困難または切除不適応な肝転移に対する局所療法および全身療法は限定的であることから、アンメット・メディカル・ニーズが高いと考えられています。当社は、安全性および忍容性の評価のための本試験を迅速に進め、肝転移を有する患者さんに新たな治療選択肢を一日でも早く提供できることを目指します。
楽天メディカルの代表取締役会長である三木谷 浩史は、次のように述べています。「当社が創薬した2つ目の新規化合物『RM-1995』を用いたアルミノックス治療の試験を日本で開始できたことについて大変嬉しく思います。肝転移はさまざまながん腫でよくみられ既存の治療法も限定的であることから、新たな治療を待っている患者さんにとっての『光』となると信じております。父のすい臓がんをきっかけに、アルミノックス治療の開発に関わることになり約10年が経過しました。すい臓がんを含む幅広いがん種に対する治療提供の実現に向け、大きな一歩を踏みだすことができたと実感しています」
2021年11月、本試験の開発について「抗CD25抗体-色素複合体(RM-1995)を用いた制御性T細胞を標的とした革新的がん治療法の開発」として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)による令和3年度「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」(第6回)における「スタートアップ型(ViCLE)」に採択され、同機構と委託研究開発契約を締結しました。本試験は、AMEDの支援によって実施します。
患者さまおよびそのご家族の皆さまへ
臨床試験サイト(https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031220721)に、本試験への参加条件などが掲載されておりますので、現在の主治医とよくご相談の上で、主治医から本試験を実施している医療機関へお問い合わせくださいますようお願い申し上げます。
楽天メディカル株式会社について
楽天メディカルは、アルミノックスTMプラットフォームと呼ぶ技術基盤を基に、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法の開発を行うグローバルバイオテクノロジー企業です。同プラットフォームを基に開発された医薬品・医療機器の前臨床試験では、特定の細胞の速やか、かつ選択的な壊死をもたらすデータが示されています。楽天メディカルは、世界中の一人でも多くの患者さんに、一日でも早く、私たちの革新的な治療法をお届けすることにより「ガン克服。」というミッションの実現を目指しています。米国に、本社と研究開発拠点を構え、日本、台湾、オランダ、スイス、インドの世界6カ国を拠点としています。楽天メディカル株式会社は、楽天メディカル社(米国法人)の日本法人です。詳しくは、https://rakuten-med.com/jp/ をご覧ください。
RM-1995について
当社の技術基盤であるアルミノックス™プラットフォームを基に開発した「RM-1995」は、細胞表面のインターロイキン2(IL-2)受容体α鎖(CD25)に特異的に結合するモノクローナル抗体と、光感受性物質であるIRDye® 700DX(IR700)との抗体-光感受性物質複合体です。RM-1995を用いたアルミノックス治療は、波長690nmのレーザ光照射により、固形腫瘍内のCD25+制御性T細胞(Treg)を特異的に排除するようにデザインされています3)。同薬剤を用いた治療は、腫瘍内Tregを特異的に減少させ、それにより腫瘍微小環境における局所的なTregを介した免疫抑制を解除し、CD8+T細胞のTreg比を速やかに改善させ、エフェクターCD8+T細胞応答を再活性化させることが当社の前臨床試験で示唆されています。
転移性肝腫瘍(肝転移)について
転移性肝腫瘍とは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)から、肝臓に転移したがんで、「肝転移」とも呼ばれます。主な転移の経路は、原発巣のがん細胞が血流の流れに乗って肝臓に生着する血行性であると考えられています。肝転移をきたす原発巣には、消化器系のがん(大腸がん・胃がん・膵臓がんなど)の他、乳がん、肺がんなどがあり、肝臓は様々ながんの転移臓器として頻度が高いとされています1)。肝転移の患者さん調査は行われたことはありませんが、がんで亡くなられた患者さん1000人を病理解剖したところ、約半数に肝転移があったことが報告されています4)。肝転移に対する局所療法は、完全切除が可能な場合の大腸がんに対する手術のみが推奨2)されているものの同治療の適応が認められるのは10~20%程度で多くの症例は切除不能である5)とされています。また、各がん腫の肝転移を含む全身療法としては、がん免疫療法が期待されていますが、免疫チェックポイント阻害薬単剤で治療効果が認められる患者は20~30%と限定的であると言われており、複数の作用機序の治療法を組み合わせた併用療法の開発が求められています。当社は、こうした背景から肝転移に対する新たな治療法へのニーズが高いと考えています。
アルミノックスTMプラットフォームについて
アルミノックス™プラットフォームは、治療技術基盤の名称であり、米国国立がん研究所の小林久隆先生らが開発したがん光免疫療法が基となっています。同プラットフォームは、医薬品、医療機器、医療技術、その他周辺技術を総合的に利用した技術基盤であり、楽天メディカル社は、これに基づき製品や治療法の開発を進めています。アルミノックス™プラットフォームとは、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法を開発するための技術基盤です。同プラットフォームを用いた治療は、「薬剤の投与」と「光の照射」の 2 段階で構成されます。薬剤は、光感受性物質 (光に反応する物質) と、キャリア (特定の細胞に選択的に集積する成分) から組成される複合体です。同薬剤を投与し、特定の細胞に選択的に集積させた後、その細胞に特定の光を照射することで光感受性物質を活性化させ、生化学・物理学的プロセスにより、特定の細胞を壊死させ、あるいは、排除します。
参考:
1) Danielle T. 転移性肝癌; MSDマニュアル プロフェッショナル版(2023年7月26日ウェブサイトアクセス)
2) Yamamoto M. Clinical practice guidelines for the management of liver metastases from extrahepatic primary cancers 2021. J Hepatobiliary Pancreat Sci., 28, 1-25.
3) Sato, K. et al. Spatially selective depletion of tumor-associated regulatory T cells with near-infrared photoimmunotherapy. Sci Transl Med 8, 352ra110, doi:10.1126/scitranslmed.aaf6843 (2016).
4) Abrams HL. et al: Metastases in carcinoma; analysis of 1000 autopsied cases, Cancer 1950; 3: 74-85.
5) 三瀬祥弘、他. (2010). 肝胆膵の転移性腫瘍―疫学,臨床病期と治療方針. 肝胆膵画像, 559-563.